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東京高等裁判所 平成10年(行ケ)272号 判決

原告

アース製薬株式会社

代表者代表取締役

訴訟代理人弁理士

被告

大日本除蟲菊株式会社

代表者代表取締役

訴訟代理人弁護士

赤尾直人

同 弁理士

主文

特許庁が、平成6年審判第18122号事件について、平成10年7月1日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

主文と同旨

2  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

(1)  原告は、名称を「加熱蒸散装置」とする特許第1849510号発明(昭和57年10月20日実用新案登録出願、昭和62年8月10日出願変更による特許出願、平成4年2月27日出願公告、平成6年6月7日設定登録、以下「本件発明」という。)の特許権者である。

被告は、平成6年10月24日、原告を被請求人として、本件特許の無効審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成6年審判第18122号事件として審理し、平成7年8月3日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をしたが、同審決を取り消した東京高等裁判所平成7年(行ケ)第231号審決取消請求事件の判決(平成9年2月4日判決言渡し)が確定したので、特許庁は、同請求につきさらに審理し、平成10年7月1日、「特許第1849510号発明の特許を無効とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同年8月6日、原告に送達された。

(2)  原告は、平成11年2月1日、本件明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載を訂正する旨の訂正審判の請求をしたところ、特許庁は、同請求を平成11年審判第39005号事件として審理したうえ、平成11年9月13日、上記訂正を認める旨の審決(以下「訂正審決」という。)をし、その謄本は、同年10月25日、原告に送達された。

2  上記訂正審決による訂正前の特許請求の範囲の記載

吸液芯を具備する薬液容器、該薬液容器を収納するための器体、器体に収納された薬液容器の吸液芯の上部の周囲を周隙を存して取り囲むように、器体に備えられた電気加熱式の筒状ヒーター、該ヒーターの上方を覆うように器体の上部に備えられた天面及び上記周隙の上方で開口するように上記天面に設けられた蒸散口とを具備する加熱蒸散装置において

イ  器体に器体内空間から上記周隙を経て蒸散口に通ずる上昇気流を発生させる為の外気取り入れ口が設けられ、

ロ  蒸散口と上記ヒーターとの間に0.5~2.5㎝の距離が設けられ、

ハ  蒸散口は、周隙と略々等しいかこれより大きい口径で開口している、

ことを特徴とする加熱蒸散装置。

3  訂正審決により訂正された後の特許請求の範囲の記載

吸液芯を具備する薬液容器、該薬液容器を収納するための器体、器体に収納された薬液容器の吸液芯の上部の周囲を周隙を存して取り囲むように、器体に備えられた電気加熱式の筒状ヒーター、該ヒーターの上方を覆うように器体の上部に備えられた天面及び上記周隙の上方で開口するように上記天面に設けられた蒸散口とを具備する加熱蒸散装置において

イ  器体に器体内空間から上記周隙を経て蒸散口に通ずる上昇気流を発生させる為の外気取り入れ口が設けられ、

ロ  蒸散口と上記ヒーターとの間に0.5~2.5㎝の距離が設けられ、

ハ  蒸散口は、周隙と略々等しいかこれより大きい口径で開口している、

ニ  蒸散口には手指の進入防止のための保護バーが備えられている、

ことを特徴とする加熱蒸散装置。

(注、下線部分が訂正個所である。)

4  本件審決の理由の要旨

本件審決は、本件発明の要旨を訂正前の特許請求の範囲記載のとおりと認定したうえ、本件発明が、実公昭45ー29244号公報記載の発明、本件出願前に周知の技術事項であった、電気蚊とり器において器体胴部の底側あるいは底側近辺に外気取り入れ口を設ける構成、並びに技術常識及び自明の事柄から当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるので、本件特許は同法123条1項2号の規定により無効とすべきものとした。

第3  当事者の主張の要点

1  原告

本件審決が、本件発明の要旨を訂正前の特許請求の範囲記載のとおりと認定した点は、訂正審決の確定により特許請求の範囲が前示のとおり訂正されたため、誤りに帰したことになるので否認する。

本件審決が本件発明の要旨の認定を誤った瑕疵は、その結論に影響を及ぼすものであるから、本件審決は、違法として取り消されなければならない。

2  被告

訂正審決の確定により特許請求の範囲が前示のとおり訂正されたことは認める。

第4  当裁判所の判断

訂正審決の確定により特許請求の範囲が前示のとおり訂正されたことは当事者間に争いがなく、この訂正によって、新たな構成要件が付加されたことにより、特許請求の範囲が減縮されたことは明らかである。

そうすると、本件審決が、本件発明の要旨を訂正前の特許請求の範囲記載のとおりと認定したことは、結果的に誤りであったことに帰し、この要旨認定を前提として、本件発明が、実公昭45ー29244号公報記載の発明並びに前示周知の技術事項、技術常識及び自明の事柄に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと判断したことも誤りであったものといわざるを得ない。そして、この誤りが本件審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、本件審決は、瑕疵があるものとして、取消しを免れない。

よって、原告の請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

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